終わりの後

© weizhong 2016

スキップは予想していたよりかなり対処が難しいと判明しつつあった。

とりあえずそれは、活発に私の顔を切り刻んでいかした紙吹雪にして、その後私の顔吹雪を宙に撒き散らそうと頑張っている。

“へっ。'顔吹雪'。次回のために覚えとこう”、収容ベイの扉が音を立ててさまよう触手の上で閉じ、中のスキップの上げる苦痛の悲鳴と共に切り刻む中で迫る扉を潜りながら思った。

私はゆっくり立ち上がり、ポケットからノートを取り出した。ペンを取り出すと、素早くメモを書きなぐる。

アノマリーは極度に敵対的、近づくべからず。'顔吹雪が予期される。'



全ては2か月前に始まった。とんでもないことが起こった。いつもの財団流以上の意味だ。世界は血に飢えた怪物と口にするのもおぞましい恐怖とで一杯になり、そしてときどきラズベリーレモネードの剃刀の味がした。

私は当時何が起きていたのか知らなかった。警備員は私を屠殺される仔牛のように収容チャンバーに追い立てていったし、私もおおよそそのように感じていた。何が起きていようと、私は貧乏くじを引くのだと確信していた。

君が基本的に砲火の生きた餌であるとき人生はそんなものだ。思うに、Dクラスとしての人生は。

最初の1時間、私は収容違反か何かが起きたのだと思い、いつものように隔離されていた。4時間目に突入し、いつもより深刻なのだろうと思った。6時間目になり外からの叫び声を耳にして、私は少々心配になった。8時間目に停電が発生し、予備発電機が動き出し、最悪の事態が起きたと確信した。

しばらくの間は何をすればいいか分からなかった。私の一部は誰かが迎えに来るまで房にいるのが正解だと考えていた、なぜなら立ち去れば撃たれるという確かが予感があったからだ。他の部分は、ここまででかい何かが起きたならば、いずれにせよ連中は私を撃ちに来るだろうと指摘した。“やりかけを始末する”ってやつだ。そいつはよかった、小さな過去の殺しの染みが官僚主義的効率に見合うものであることを祈るよ。

結局、どうせ死ぬ運命なら逃げるチャンスもあるだろうと決心したのだ。

通気口を無理やり通って廊下に落ちてすぐに辺りを見回し、待ちうける警備チームからの弾丸の雨を覚悟した。代わりに出迎えたのは……大虐殺だった。

あらゆるものはゆっくり明滅する赤い警報の光を浴びていた。私を閉じこめていた警備チームの死体は廊下中に撒き散らされていた。今のところ、仕事で忙しない財団サイトに典型的な光景や音は存在せず、そこらじゅうにあるスタッフメンバーのミンチ死体を除けば廊下にはあらゆる生命体がいない。死の匂いは濃く鼻につき、私の心を漂っては脳をチョークホールドしては吐き気を催させた。

死後硬直で固まった警備員の切り落とされた腕からピストルを取り、万が一必要になった時のためにもらっておいた。一体この場所に何が起きたんだ?

廊下を進むにつれ更なる暴力のサインだけは見つかったが、異常であれそうでないものであれ回答も生命もなかった。研究者もいつもいる警備員も、他のDクラスすらもいない。ある廊下の真ん中で、私は重要そうな見た目の死体からIDカードを見つけ、その後とうとう探していたものに辿り着いた: サイト管理者のオフィスだ。



「オッケー自分へのメモだ、あの触手っぽいスキップにはこの先かまうな。よろしく私」

私は地面へ滑り込み、手に顔を埋めた。この孤独な時間が私を狂わせたのだろうかと思った。

かつてここに他のDクラスがいた頃、私たちは真の絞首台ユーモアの感覚を身につけたものだった。この辺にあったものはほぼ何一つとして絞首台ほど優しくなかったが。少なくとも、絞首台には素早く首の骨を折って殺す良識があった。私のDクラスの仲間たちが対処せねばならなかった、あのスキップたちの一部にでもあの優しさがあればよかったのだが。

またやってしまったようだ。

しかし一理ある。スキップの近くで座っているのは、自分がどこで何をやっているのか気付くたびにちびるよりかは遙かに気楽だ。少なくともそれが自分たちに言い聞かせてきたことだ。

私は地面から起き上がって埃を払うと手元のタスクに集中した。私にくっつき、皮膚の下か何かに入りこもうとしていた触手の欠片を全部チェックする。十分に清潔ということになったら、サイトのガレージに行って確認し、他にチャンバーから飛び出して襲いかかってくるものがいないことを確実にすることにした。

物資とその他さまざまな装備品が詰め込まれた財団支給のトラックを除き、サイトのガレージは手をつけられていない乗り物で一杯だった。私は鞄からチェックリストを取りだして確認を始めた。

‘SCP-3234に餌をやる。’チェック。隣に“顔吹雪”と書きこんだ。

‘一週間分の物資。’チェック。官給MRE一週間分、水はたっぷり、念のために救急キット。

‘キャンプ用品。’チェック。テント、ナイフその他、全て荷造りして積んである。

‘武器。’チェック。兵器庫からピストル1丁とライフル1丁と、弾を山ほどかっぱらってきた。対面しなければならないスキップには無意味である公算が高いが、人間の標的がいるなら話は別だ。あと、ちょっとだけ自信が増す。

トラックに乗り込むと、イグニッションキーを回してガレージを出る前にサイト管理者のオフィスから持ってきた地図を確認した。

次の停車地: サイトオメガ。



テストからテストへエスコートされる間、何度も管理者のオフィスの前を通過して、何人でも何が起きたかを把握するには最適な場所だと理解した。このあたりを通ると、いつもドアの前には武装した警備員が2人いた。

「うむ、ある時点でここには2人の警備員がいたな」蝶番から引き離され、打ち捨てられていなければ存在したであろうドアの両側に血の跳ねた跡を見つつ、私は呟いた。厚い鋼鉄は絶対遭遇したくないと思わせる何かによって曲がり、引き裂かれていた。

それは未だ何がこの基地を壊滅させたのか考えもつかないという事実を、またそいつは明らかに私がテストしたことのある何かでもなく、さもなくばここのミスター・ひきにくやミスター・ひとがたのしみのようになっていたであろうということを思い出させた。突然強い孤独を、そしてこの開けた廊下の真ん中で身を隠す物も何もないと感じ、私は素早く中に逃げ込むことにした。

サイト管理者の死体は机にうつ伏して、サイトの中で見てきた他の誰と比べても驚くほど穏やかな姿だった。机の上には堅苦しく角ばったような筆跡のメモがあり、その傍らで何かの錠剤の瓶が空いていた。

もし財団の誰かが生き延びてこれを読んでいるなら、これはハインリヒ博士が理論化して、昨年論文を発表した“XK-クラスシナリオ”であるということを理解してほしい。あまりに悪いので、フェニックス・プロトコルが実施されている。主よ、我らが魂を救いたまえ。君が何者であれ幸運を祈る。

私には彼が何の話をしているのか全く見当がつかなかった。頭を掻いていると、机の上にあるまだ電源の入ったコンピューターに気付いた。管理者の死体を脇にどけてコンピュータの正面に座ると、かすかに光るスクリーンが即座に出迎えてきた。

“パッドに指をのせてください”

私は机の上、コンピューターの前にある小さな金属のプレートに気付いた。プレートの上に私の指を置き、よく分からない間に出来ていた切り傷にひるんですばやく引っ込めた。

小さな血の球がプレートに載ったが、コンピューターの画面は点滅して変わった。

“DNAと指紋サンプルを確認: D-1573.”

“クリアランス処理中…”

“フェニックス・プロトコルによるアクセス承認”

画面はすぐにフォルダの山で覆われた財団ロゴの背景に変わった。突然、画面は同じテーマのポップアップで覆われた。
サイトブラボーより警報: 複数のKeterクラスオブジェクトの同時解放、ただちに支援求む。
サイトタンゴより警報: 数体の敵対的アノマリーの開放により死者多数、ただちに支援求む。
サイトイプシロンより警報: 突然の敵対的実体の開放を抑制できず、ただちに支援求む。
監督司令部からの自動警報: フェニックス・プロトコル実施中。
いくつあったか忘れるほどクリックするまで、警報は次から次へと現れた。私は唖然とした。一体いくつサイトがあるんだ? 何が起こったっていうんだ? 他に誰が残っているんだろう?

私の目は画面右下で点滅している最後の警告に引きつけられた。クリックして文書を読むと私の心臓は跳ねあがりだした。
フェニックス・プロトコル施行中

注: これは自動化されたアクションです。フェニックス・プロトコルは以下の自動的理由により実施されました:

任意のサイトからのフェニックス警報システムに対しいかなる反応もないまま5時間が経過し、よってこの警報の時点で財団サイトの90%以上とコンタクトが失われたと仮定。

加えて監督司令部とのコンタクトを喪失。


フェニックス・プロトコル解説:

監督指令部の壊滅に並び、全ての主要サイトがどのようなSCPオブジェクトであれ効果的に収容する能力を喪失したと仮定される時点まで運営能力が全体的に崩壊した際、フェニックス・プロトコルは財団の主要データ資産と主目的の存続を確実にします。

フェニックス・プロトコルが施行される際、任意のセキュリティクリアランスあるいは地位にある全ての生存する財団の構成員はただちにSCP異常に関して臨時のレベル5情報クリアランスへと昇格され、財団の情報と生存者をただちに収容されねばならない主要な異常を確保できる部隊へと強化する任務を課されます。

もしあなたが現在実施中のフェニックス・プロトコルに応答した場合、財団と、潜在的には人類種の存続のために以下のステップに従わねばなりません:


サイトオメガへの道のりは長かった。元いた場所から最寄りの財団サイトすら数時間の距離だった。ありがたいことに、まだ一般人の世界では誰一人として普段と違うことに気付いた者はいないようだったが、これから訪れる数週間に何が起こるかは私には保証できなかった。

しばらく滞在しないといけない場合に備え、サイトオメガから歩いて30分の場所にキャンプを構えた。そこで何を見つけるかについて完全には分かっておらず、万が一また問題が起きた場合に退却できる場所があった方がよかった。

私は夜が来る前に軽くサイトオメガを調べる時間があると判断した。ライフル(この場合は安全毛布に毛が生えた程度だ)を手に取り、医療物資と道具と、サイトオメガとそこの異常に関して手に入る限りの情報が入ったノートの詰まった鞄をつかむ。もしこの“世界を救う”というやつをやるならば、その前に殺されないようにしなければ。

私はライフルをいつでも撃てるようにして、サイトへと注意深く歩いた。すぐに林に隠されて軍事研究ラボに偽装されたサイトにたどりついた。サイトの大部分は地下に隠れ、全体が木々に囲まれていた。実際サイトへの出入り口は少し人目につかない場所にあり、ライフルを置いて地図で正確な位置を確認しなければならなかった。

「動くな。手を上げろ」

背後からの冷徹などなり声を聞き、私はその場で固まり、ゆっくりと宙に手を上げた。

「こっちを向け。ゆっくりとだ、くそったれめ」

私は念のため、最高にゆっくりするよう気をつけながら後ろを向いた。

何なのか見た時にはほとんど笑うところだった。ちょうど私のような12人ぐらいのDクラスだった、私が1週間前に捨てたつなぎをまだ着ていることを除けばだが。木立にまぎれて、遮蔽物の後ろで、藪の中から、そこらじゅうにいた。銃を持っていたのは1人だけだったが、彼女が私に怒鳴りつけていた声の主だったのだろう。

人生というのは奇怪な皮肉のセンスの持ち主だと思わないかね? 正規の財団職員は全員死んだというのに、13人のDクラスが生き延びて残り物をせしめている。

「貴様は何者だ?」声が再び怒鳴り、ピストルは私の頭にまっすぐ向けられていた。

「落ちつけ落ち着け。私は味方だ」声に最大限の穏やかさと親しみやすさを込めることを試みつつ、私は言った。

「名を名乗れ阿呆め、そうすれば無断侵入で撃たないでおいてやる」女は身じろぎもせず言った。

サイト管理者のコンピューターにあるファイルを漁っているときに見た何かを思い出して、不本意ながら少し笑顔になった。目の前の群衆に向かってニッコリと笑い、そして答えた。

「こう名乗っても差支えないだろうな……"管理者"と」

  • 最終更新:2017-03-01 06:34:46

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