粒餌


チチチ。チッチッ。チュンチュン。チーチー。グワッグワッグルーブルーシュループ。

鳥の鳴き声のために、多くの言葉がある。シルヴァン・エーリェはそう考えていた。しかし正しく言葉を聞き取るのは難しかった。

スルルススルグググルグルルスルスグググ。

ハチドリだと、彼は思った。彼は以前喉を鳴らして流す奇妙な組み合わせを耳にしたことがあった。その音は見るものを惑わせる無邪気な小鳥の見た目と同時に生じるものだった。シルヴァンはあくびをして、垂れ下がる柳の枝でできた揺りかごのような円の周りをぴょんぴょんと飛んだ。夜眠れるように彼はそれを選び出していたのだ。

腕を屈伸させ首を回すと、鳥の魔術師は毛布として使っているコートを一瞥した。ポケットをくまなく探し、彼は粒餌の入った小さな布袋を回収した。彼は微笑み、柳から垂れている葉の脇へと行き、さわやかな朝の空へと踏み出した。

放浪の旅の中で彼は多くの美しい風景に出会ったが、彼がツバメを追っているときに転んだ山の湖もその例外ではなかった。彼は心からこれを楽しみ、人生に束縛されることなく、ここでいくつかの新しい言葉によるちょっとした呪文を学んだ。快活そうに口笛を吹き、シルヴァンは彼の開いた手へと気前よく粒餌を注いだ。彼は量について良く考え、それからいくつかの粒を肩へと置いて座った。彼の信頼できる精霊の杖、最初の指導者の餞別は、彼の正面の地面に置かれた。

最初に小さな鳥が彼の前に現れ、肩に止まって粒餌をついばんだ。1羽のコウライウグイスが一瞬彼の手の上に座って彼を見ると、すぐにシルヴァンはいくつもの輝く目や羽に囲まれていた。

彼がある影の通り過ぎるのを見たとき、翼が小鳥50羽分もあるような何かが彼の正面に降り立った。

伝説のカラスだと、シルヴァンはそれが静かに近づくにつれ認めた。伝統的な衣装、鳥と人の特徴(腕、足、翼)、おそらく日本の天狗だ。それが何であれ、それは地面に置かれた開きっぱなしの粒餌の袋をじろじろ見ているようだった。シルヴァンは彼に群がる鳥達が木へと飛び立つのを根気強く待ち、無言で袋を取り上げるとカラス男に手渡した。男は感謝の言葉を述べた。

「名誉ある兄弟よ、何を運んできた?」

カラス男は粒餌を監視しながらためらい、彼のくちばしを袋に入れた。彼は翼を礼儀正しく畳み、背中につるされた旅人の荷物を探した。そして彼は小さな紙で包まれた箱を回収した。シルヴァンは差し出されたそれを受け取り、カラスは粒餌の袋をついばむのに戻った。

包み紙には黒いインクで文字が殴りかかれていた。それについて考え、シルヴァンは彼がこれらの山々深くに住むもののための配達係であると理解した。とても深くに住んでいるもののためだ。この日の旅の半分で、何度も方角を聞くために立ち止まった。シルヴァンは彼の精霊の杖をちらっと見て、この地域に住む多くの鳥をうれしく思った。

彼の礼儀を思いだし、箱をコートのポケットにしまいながら鳥の魔術師は天狗にお辞儀をした。「それのしたことを考えて、」シルヴァンは言った。それは空に再び飛び立つ直前、カラス男の発した親しげなガーガー声で報いられた。

シルヴァンは自分が目的地の途中であり完全に迷ったことを、天狗が二度と戻ってこないと気づいたときにわかった。


シリトリ・ザクロは悪魔の女司祭の櫛となる木の柄を彫刻していたとき、優雅な葉の雨から顔を上げた。「どうぞ、」肩越しに彼女は呼びかけ、席を立つと作業場を離れた。彼女が家の入り口に向かう4つの赤い外骨格の距離をゆっくりと歩く間、彼女の綿のローブはすこし地面に引きづられていた。ローブは幾重にも折り畳まれた紙の装飾が施され、彼女の背を少し猫背にしていた。紙の鳥と繊細なクスダマは細い絹の綱で彼女の結い上げられた長い髪に結ばれて、彼女が動くたびにサラサラと音を立てていた。

初めて彼女に会ったとき、シルヴァンはマスター・シリトリが着ている紙が燃えるという危険を考えないのだろうかと不思議に思った。彼は彼女と会話する際にそれを口に出さなかった。

シリトリは鳥の魔術師を丁重に迎え、茶を出し、彼が運んできた包みを取った。彼女は紙を解き箱を開けると、いくつかの金のかけらを取り出した。彼女はその金属に対して微笑み、神への感謝を何事が呟くと袂に金をしまった。袂はとても広がっていた、シルヴァンはそれを鎌状の大釘を収容するためだと認識していた。大釘はマスターの前腕を優雅に傾かせていた。彼は彼女が格闘するのを見たことがなかったが、いくつかの蟷螂のような戦いは目撃者を魅了するのに十分だった。彼女は薬缶をまだ温めている炉へ向かい、シルヴァンは彼女の背中で翼がきちんと畳まれているのを見た。

茶を少しずつ飲みながら、シルヴァンは彼の並大抵ではない幸運を思った。シリトリ・ザクロについての有名な手の伝承では、伝説的な道具製作者、物作りと物質に魔法をかけることの達人だと伝わっていた。彼女は彼の精霊の杖のすばらしい状態について讃えた。おそらくそれを聞くのは、道の無い山の雑木林をさまよい、数え切れないほどの回数方向を確かめるために立ち止まるだけの価値があることだった。彼は何羽か鳥を彼らの日常から呼び出した。その中には1、2羽怪しく、ビーズのような目と鋭いくちばしをもった-

彼のテーブルの向こうで何かが押されてポキンと折れる音で、シルヴァンは思考の霧から戻ってきた。彼はマスター・シリトリが、山腹の西の森にいる親友に荷物を届けてくれないかと頼むのを聞いた。それは折られた葉で出来た何枚かの紙であり、極上のものではなかったが、友人が何度も頼んできたものだった。シルヴァンは情報を全て聞く前に承諾した。それから、その友人は約1000歳で、風変わりなところがあり、多くの甲虫と親しくしていること、どうか訪れている間何も食べないで欲しいということを彼は聞いた。

「...ええと、何歳でしたっけ?」彼は沈黙が好ましくないくらいに続きそうだったので聞き直した。マスター・シリトリは笑い、その声は彼女の家の上にある骨で出来た風の鐘のようだった。「心配しないで。友愛から生まれた旅は価値あるものになるものよ。」茶をきれいにするとき、彼女の黒い複雑な瞳はきらめいた。

小さな人影が苔むした巨石の上、地衣をクッションとしてうずくまり、空の壷の小さな穴に目をくっつけて何かを見ているようだった。チュニックと多色で小さな金属のかけらを連結させて作った長いスカートを着た、甲虫の少女ジュロディスは、森林の暗い藪の中での輝く点のようであった。彼女の金属めいた髪はかすかに青い光沢を持ち、その小ささを強調し、頭の冠から広がる一対の触角を目立たせていた。

シルヴァンが彼女を見つけるまでに3時間ほどかかったが、幸運なことに彼が運んでいる紙束は薄かった。ナップを使うこともできた、とシルヴァンは考えた。考えることは他にもあった。甲虫はそれを手にしたときどんな音を奏でるのだろう?

鳥の魔術師はためらい、少女を驚かせないよう慎重に歩き出した。彼女は観察に集中し、動きも、呼吸もしていないようだった。彼はゆっくりと、だが慎重に近づき、甲虫の少女に近づいたとき彼は壷の中を見つめた。彼はそれをじっと見つめた。

「...何をしているの?」彼の口から出た最初の言葉はそれだった。心の中では他にも質問が蠢いていた。「どこであの蜘蛛を捕まえたの」や「どこであの大きな蟻を捕まえたの」や「なぜ彼らを壷によじ登らせているのを見ているの」などが。

彼に向けて手を静かに揺らし、甲虫の少女は後ろに呼びかけた。「シー。愛の物語を綴っているの。」彼女は夢見がちに微笑み、やや遠くを見ながら、「彼女は女王蟻。彼は蜘蛛の王としては特別じゃないけど、生きるために必要なくらいの蟻を捕まえることはできるの、運命が彼らを引き合わせ...」彼女の声は消えていき、彼女は壷の側面を叩き、女王蟻が歩いている底へと、蜘蛛を落とした。

「彼は彼女を敬愛しているのと同じくらい、彼女に対して陰謀を企てていたの、彼は彼女の悲惨な結末になるのよ。」彼女は頭を傾け、かすかな、静かな日の光で耳の玉虫色の甲虫の羽の装身具が輝いた。シルヴァンはこの悲劇の物語を聞いてまばたきした。

少しの沈黙の後に、シルヴァンは彼の精霊の杖に巻き付いた装飾をいじくり、自分のコートのポケットに糸くずを見つけた。それから彼はおそるおそる申し出た。「もし悲劇にしたいんだったら、僕が友達の1人に両方を食べてもらうよう頼んでもいいけど。鳥は虫を食べるし...」彼はこの礼儀正しい申し出の残りをどう言おうかと悩んで話を止めた。「そうすると蜘蛛は殺さなくてすむよ、彼の、えーと、愛を。」

甲虫の少女は振り返り、自分の座っているところから鳥の魔術師を見た。彼女の触角は興奮で前後に揺れていた。「ダメ。彼ら自身の本質が彼らを引き裂かなければならないの。悲嘆はより確かになる-」

「そう思うよ、」シルヴァンが穏やかに遮った。「壷を振るのを止めたら...?」

ジュロディスの頭は彼女の手のある苔むした岩に置かれた。実際には、彼女の手は壷をつかんで押していた。彼女は喘いだ。「いつ蜘蛛が蟻を捕まえたの?彼は互いが円を描いて歩けるよういつも巣を紡いでいなければならないのに!」彼女は壷を持ち上げて目に近づけ、こう喋った、「蜘蛛は動きさえしないわ。巣で休み、動かない、ただ-'蜘蛛は彼の不運な犠牲者を近づけ、彼の女王を彼に殺さしめる自然の掟を嘆いた。'」彼女は壷を優しく見ながらため息をついた。近くの葉にいた青と金の甲虫が一瞬飛び、甲高い羽ばたきでアリアを歌い始めた。

シルヴァンはつぶやきの影響を幾分軽減させた。「実際、僕は蜘蛛の食事だと思う。」

「彼女は彼の心臓をかみ切るには長すぎたの!芸術の自由よ。この蜘蛛がどうやって体をあやすか見てちょうだい。」

シルヴァンはかろうじて不器用な含み笑いをしたが、ジュロディスの表情を見るとすぐに止めた。

「あ...泣いてるの?」

「黙って、」きびきびとした返答だった。

シルヴァンは目を空に、(もしくは森の林冠に)向け、激昂した批評を抑えた。彼はコートから葉で折られた紙の束を取り出し、苔むした岩から壷をどかせて出来たスペースに注意深く置いた。「これを。レディ・シリトリからだよ。これがすぐに悲劇と愛の言葉を運ぶのか僕は疑問なんだけど。」

ジュロディスは紙を見るとニヤリと笑った。シルヴァンは1000年というのはその10倍の年月を生きるものにとっては若いのだと思い出した。「ありがとう、鳥の魔術師よ、」彼女は礼儀正しく言った。「道を戻るなら、ミントの連なった角を曲がれ。歩いている間お前の鳥の歌を歌えば、自分が木の家にいるとわかるだろう。山のふもとの私の兄を尋ねて、彼のために私が新しい物語を書いていると伝えてくれないか。彼は旅を価値あるものと保証してくれるだろう。」

言葉は親しげだった。「友愛から生まれた旅はたいてい価値あるものとなる。サヨナラ、」シルヴァンは少しお辞儀をすると、杖を肩にかけ、蜘蛛と蟻に申し訳なく感じる前にいそいでその場を離れた。


「ああ、まだ書いてるんだ、あの子?実際に起きたことを悲劇の二次創作の材料にしているんだろ?」ヴァンソニ、ヴァンと呼ばれるのを好む男は、笑ってその不自然なほど鋭い(そしてとげのある)歯でいっぱいの口を見せた。「私の妹はいつも空想家だった。たぶんそれが彼女が人よりいろいろなものを見る理由なんだろうな。」甲虫の男は、彼と鳥の魔術師が座るテーブルで小さながらくたを仕分けながらくすくすと笑った。

ヴァンは小さな暗い球を仕分け続けていた。シルヴァンが見たところ、その球は家中にあった。その家は部屋を仕分けるための壁が無く、天井で巣のように組まれた木の枝から、小さな枝編み細工が吊されていた。金属的な甲虫たちがそのネットワークを波打つカラフルな毛布のように這っていた。ヴァンは色鮮やかでゆったりとした粗い生地のローブを着ていて、自身をそれらとうまく混じり合っているように見せていた。

「どんなことでも、妹から便りが来るのは良いことだし、彼女が彼女の物語をまだ覚えているというのを聞くのも良いことだ。1000年以上前のことはたやすく忘れられてしまう、誰かが書き残さない限りね。」ヴァンはテーブルの下の棚に触れると引き出しの1つから何かを取り出した。「どうぞ、これを私たち2人から受け取って欲しい。」

シルヴァンは布袋を受け取り、持ち変えるときに袋に入った何かがサラサラと音を立てるのを聞いた。「ありがとう。」

ヴァンはにこりと笑った。「このあたりの甲虫は鳥といい関係を築いている。手足が小さいほど繊細な仕事が出来るようになり、より食べ物を集められる。この混ぜものはここの鳥たちに甲虫を放っておくほうが食べ物を集められると確信させたんだ。」

「混ぜもの?」シルヴァンは訪ねたが、その答えを知っているような気がした。

甲虫の男はうなずき、彼のずんぐりした触角もうなずくように1度曲がった。「粒餌だ。気に入るといいんだが。」


シルヴァンは日の蔭ってゆく夕暮れの中を歩いていた。粒餌の袋、日が昇るまえに彼が持っていたのとほとんど同じものを持ちながら。

100歩後に彼は自分の足が気づかないままに木蓮の木の根本までたどり着いたのに気づいた。シルヴァンは木に立て掛けた杖にもたれて上を見た。彼はコートを脱ぐと低い枝に投げ、幹の交差しているところまでよじ登った。なめらかな木の枝にもたれ、彼は包みを開けた。彼は一握りの粒餌を食べ、噛みながら鳥の子守歌の断片をハミングした。

彼は木の東側の大きな白い花々のあたりから聞こえてくるさえずりを聞いた。微笑み、鳥の魔術師は少し位置をずらすと、起きあがることなく届く3本の枝に粒餌を注いでやった。

鳥の歌のさえずりはその晩の間続いた。ここには鳥の音のための多くの言葉がある、シルヴァンは眠りに落ちる前にそう思った。

  • 最終更新:2016-07-29 19:37:17

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード