徹底解説クリニカル・トーン

© A Random Day 2016

はじめに

clin·i·cal
ˈklinək(ə)l
adjective
1.
of or relating to the observation and treatment of actual patients rather than theoretical or laboratory studies.
"clinical medicine"
開発研究や基礎研究よりも、実際の患者に即して行われる治療や観察、あるいはそれに関わるもの。

2.
efficient and unemotional; coldly detached.
効率的な、冷淡な;冷静で客観的

怪奇、心霊、奇妙な深夜の物音、これら全てを科学の力をもって収容し、科学的に記録することは、SCP財団の一番の持ち味です。
しかし執筆にあたって、これはもっとも難しい課題の一つでもあります。 というのも、研究論文を書くことは、単なる幽霊物語を書くより難しいからです。
そして「もっと分析的(クリニカル・トーン)に書いてください」などのアドバイスは、ありふれているものの、駆け出しの執筆者にとってみれば全く役に立たたず、しかも、ごく漠然としています。
このエッセイではクリニカル(臨床的、あるいは分析的)な文章には何が求められているのかをはっきりさせて、具体例を示し、さらに改善に役立つ提案をします。

これより先の文章は公式なルールや、それに準じるものでは決してありません。
またインタビューログや日記、フォーマット・スクリューを書くにあたってのガイドでもありません。
私はクリニカルな文章を書く専門家であるとは言いません(そういうものを修めたとも言いません)。率直に認めると、私はこのガイドラインを厳密に守っているわけではありません。
それでも、私の偽善的な言い分は最大限取り除きました。私は以前、人の文章のクリニカルトーンを高めることが、とても上手であると言われたことがあります。
さて話はこのくらいにして、始めましょう。



クリニカル ≠ 冗長

クリニカルな文章を書くにあたって、重要なルールは以下の二点です。

  • 省略形を避ける
  • 口語表現を避ける

最初の項目は理解しやすく、すぐに実行に移せるでしょう。もし文面に"Won't"や、"Could've"などの省略形があるなら、置き換えて"Will not"や、"Could have"など省略をしない形にすれば良いのです。
しかし残念ながら、二つ目の項目は理解することが難しく、時に誤解されることもあります。日常会話(言語は問いません)は口語表現により成り立っています。
口語表現は、文を短縮し、単純化し、理解しやすい形に変えることができます。ですから口語表現は、とてもよく使われ、またあまりにもいたるところに存在するために、多くの口語表現に気がつかないこともあります。

しかし、科学研究あるいは臨床研究における文章では、ほとんど(滅多に)口語表現を使いません。たとえ何らかの口語表現が普及していたとしてもです。
このような研究文書を記すにあたっては、学術用語を使わなければなりません。
また、臨床検査的な文章を記すからといって、長ったらしくて難解な言葉を必要はありません。
つまり、口語的表現を文章から極力排して、専門家らしい態度で書いてください。科学的記事には、 臨床上必要な情報が求められます。
それでいて簡潔で読みやすい報告書にもしなければならないのです。

ではここで、クリニカル・トーンとストーリー性を両立させたSCP記事の例としてSCP-186を見てみましょう。SCP-186のホラー要素の核心部分は、以下の兵器に関する部分です。
58mm迫撃砲2型から発射できるよう作られた砲弾で、ガスが充填されている。このガスは動物細胞に働きかけ、その細胞の生活機能を停止できなくする。
専門家ではない普通の人に前述の兵器を説明するように頼んだなら、「人を不死者にするガス」や「人を死なせないようにする」などと書くでしょう。しかし、「死」ならまだしも、「不死者-Immortal-」は分析的な言葉ではないと思いませんか?

厳密にはSCP Wikiの基準は、現実の学術記事と同じではありません。
Wikiのフォーマットは、現実の学術記事と似せてはいるものの、学術記事よりシンプルです。
またいくつか特異な癖のようなものもあります。
特異な癖の例として、「死」という語は臨床的な単語と見なされず、「終了」という語に置き換えられるなどが挙げられます。
このようなタブーがあるために、「殺す」という動詞は常に、「解雇する」や「終了する」などといった動詞に置き換えられます。

SCP-186に戻りましょう。Kalinin氏が「死ぬ」をあえて「生活機能を停止する」と置き換えた点に注目してください。
文章から口語表現が取り除かれた結果、一文が長くなってしまいました。
これは重要なポイントです。文章が長くなったのは、偶然にも臨床上の用語が長かったためであり、その他の理由ではないのです。
多くの著者は、分析的に書けば文章は自動的に長くなると誤解しがちです。例えば「電灯のスイッチをオフにする」といった既に分析的な表現になっている文章にすらも「より分析的な表現に仕方はないだろうかと、無闇に探す」ことに陥ってしまいます。

専門家らしい態度で、かつ簡潔に書くように努めてください。この60年のうちにKISSの原則は、エンジニアリングの領域では切り離せない存在となりました。
よって、SCPの記事においても、KISSの原則は重要な原則です。

肝に銘じてください
  • 「チェレンコフ放射」のようなフレーズを確認したい、「速さ」と「加速度」を正しく使い分けられているか心配、メガやギガなどの接頭辞を再確認したい。このような時は、専門用語のリストが良くまとまっているので是非読んでみましょう。
  • 受動態を使用するべきか否か(例えば、「サンドイッチは食べられることになっています」vs「サンドイッチを食べます」)は、これまでもスタイルガイドや英語教師たちによって盛んな議論が交わされてきましたが、このWikiでは物語体よりも非作為的文章にするために、封じ込め手順を描くときには受動態を使うという得意な傾向があります。

      • -

定量的測定

まともな科学者かエンジニアなら、研究報告書や技術文書に数字を記さないわけはないでしょう。
現実における定量的測定結果(推計でも)は、研究の成果を真っ当なものにする極めて大事なものです。
なぜならば、定量的測定値は具体的なデータの記録値であるので、測定値同士で比較も容易で、かつ参考に供することもできるからです。

SCP-1512はクリニカルトーンを出すために、定量的測定を用いたSCPのゴールドスタンダードの一つです。
spikebrennan氏の言葉を借りるならば、SCP-1512を「財団は、名状しがたき非ユークリッド幾何学が支配する外なる宇宙より降り立った、鱗屑あるいは縮葉めいたラブクラフト・ホラーを……工学的問題に帰着させたのです。」
これは定量的測定法を賢く用いた故の偉業です。

> SCP-1512は根状の有機構造物であり、現在80,000メートルトンを超える質量を持つと推定されています。長い枝や蔓が密に絡み合った網状の形態を持ちます。各蔓は数百メートルの長さを持ち、数メートルごとに子の枝を持ちます。巻きヒゲや様々な方向へジグザグに伸びる構造を持っていますが、この構造パターンは見つかっていません。

SCP-1512は巨大で不気味な根っこのような存在だとわかります、しかしspikebrennan氏はこのSCPを単純に「巨大で不気味な根っこのような存在」と呼びませんでした。
なぜならば、SCP-1512の質量(何万トンもの質量)や長さ(数多くの巻きひげがそれぞれ、何百メートルもある)が示されているからです。spikebrennan氏は後から照会することが可能な、測量し定量化された推計を示しました。

明らかに、サイズは定量化することが簡単です。

では他に使われている、より巧妙なトリックはないでしょうか?
カートゥーンの科学者でもない限り「SCP-1512は無敵です」などと書きません。ではどのようにして、あなたは「SCP-1512は無敵です」と記しますか?

> SCP-1512は明らかに有機的な組成を持ちますが、測定不可能な高いビッカース硬度を有しており、切断、火炎、レーザー、苛性の酸や類似薬品、他ありとあらゆるダメージに対する耐性を持っています。

この文章でSCP-1512が無敵であることを説明しています。
しかも、SCP-1512に損傷を与えるためにさまざな手段を並べて、それが全て不成功に終わったことを示し、種々の物理特性、不可入性(かたさ)をはっきりさせることによって、記事のクリニカルトーンを維持しています。特に、ビッカース硬度は効果的でした。
しかし、それぞれの物理特性の計量単位、計量値が、実際には何であるかの記載はありません。ただ「測定不可能な高いビッカース硬度」というフレーズで言及を回避しています。定量的測定結果を戦略的に使うことで、spikebrennan氏は、気味の悪いあの世のビーストに鮮明かつ確固たる姿を与えたのです。
しかも、記事のクリニカルトーンを落とさずに。

定量的測定を記事に取り入れるのは比較的単純ですが、これの記事のクリニカルトーンを高める効果は絶大です。
だからと言って、SCPのあらゆる側面を数値で解説しようとする(過剰なものといえば、ヒュームのようなフィクション計量単位の乱用が思い浮かびます)べきではありません。
それでも執筆したSCPの一側面を解説したい時には、その特性に対応する科学的単位があるかどうか調べて見ましょう。驚くような発見があるかもしれません。

肝に命じてください
  • 定量的評価は優れています、ただし多用してはなりません。細胞がキッカリ5.6789立方センチメートルでないと惑星を吹き飛ばすSCPや、SCPの身長がちょうど1.23456メートルであることがそのSCPの特異性の由来などでない限り、小数点第2位(最低でも小数点第3位)で四捨五入しましょう。役立ち小ネタ集 は定量的評価や有効数字についてのヒントが書かれているので、これも役立ちます。




定性記述

定量的評価が活用されていないことに釣り合うように、定性評価は酷使され濫用されています。
これは、数量や計量単位を含まない説明は定性的記述であると言えるためです — つまり大多数の文章が定性的であるということです。しばしば定性的記述は、冗長で美辞麗句のクリニカルではない文章を生み出してしまいます(特に人[型]のSCPを書く時に)。

クリニカルな定性的記述を書くための原則は2つです。

  • 見たものを解説する: あなたがSCPを執筆するにあたっては、「説明」の部分は簡潔でなければなりません。SCPの挙動、物理的/例外的特徴に焦点を絞って書いてください。もしSCPが青い目をしているならば、青い目をしていると書いてください。鋭い青い目、深い青い目などと書かないでください(どっちにしたって青い目に過ぎません)。 SCPの個性が超常的あるいは危険性に関与(例えば財団の研究員に対して敵対的であるなど)しない限り、個性を書いて説明を長くしてしまうぐらいなら書かない方が良いです。インタビューやインシデント・ログに書いた方がまだ良いでしょう。オブジェクトは死んだも同然: 文字通り、アノマリーの事情は斟酌してはいけません。捨てられているスナックの包み紙よりも価値がありません。ですから、記述するにあたって同情は無用です。オブジェクトがどのように考えるか、どのように感じるか思い悩んだりしません。それは読者がすることであって、SCPを現実として書くものはアノマリーが何であるかを額面通り書くまでです。

SCP-847 は余分のないクリニカルな説明の素晴らしい例です。

行動の初期段階は甲高いすすり泣きのような喘ぎに始まり、姿勢はより煽情的なものへと変化します。この間には稀に身震いが観察されることもあります。初期段階の3から5分後にSCP-847は完全に活性化して第二段階の行動に入り、男性被験者に接近して背を曲げ、被験者の目を見上げるような姿勢を取ります。

「甲高いすすり泣きのような喘ぎ」、「扇情的な姿勢」、「被験者の目を見上げるような姿勢をとる」などこれらの説明は単純明快かつ正確に、読者にSCP-847の姿を思い浮かばせます。
これらの説明から、読者はすぐに、SCP-847が誘惑的でセクシーな行動を取ろうとしていること、男性の前に官能的に寄ってくることが推測できます。
極めて重要な点は、記事中ではセクシャル、官能的な用語を一切使用していない点と、またSCP-874がどのような意図を持ってそのような挙動をするのか、無用に思案していない点の二つです。
淡々と847の行動を記述するだけでも、読者の心象を構築しつつSCP-847のキャラクターを描けています。エンディングもなお印象的です。
2011年12月3日: 何が間違ってたの

2013年3月8日: 無価値でごめんなさい

2015年8月31日: パパ 私はいい子になるわ

著者のWrongJohnSilver氏は執筆の舞台裏で、意図をこのように語っています。「SCP-847の正体が何であるのか可能な限り分かりにくくした理由は、正体が何であれ、これには一生虐待にあった人物のオーラが強く付き纏っているためです……中に人が入っているならば、救う価値があります。不憫です。しかし、SCP-847がオブジェクトであるだろうと思い始めるほどにする為に、これから人間性を剥奪しなければなりませんでした。」

説明にはこのようなことは一切書かれていません。
これは単なる、人によって違う行動をする動くマネキンと書かれました。
そこには同情はありません。憎悪もありません。感情はありません。
SCP-874が被る虐待の全て、それが表す精神的な苦悩、全ての悲劇は、読者が察するのみです。

定性的表現の真価はそこにあります。
著者は作品に望む限りの心血を注いでも構いません。
しかし、現実としてこれを書くものは、できる限り客観的に書いているに違いません。

肝に命じてください。
  • 言い回しはできる限り単純明快に。あなたは読者から、意図や書かれていないことに対して質問をしてほしいと思うでしょうが、大多数の読者がページに実際書かれていることについて質問しなければならない状況は、執筆者の失敗です。これは、あなたのSCPに関するヘッドカノンを全て記事に放出することが無理だからそうなる、というわけではないのです。


まとめ

クリニカルトーンのある記事を書くときに考えなければいけない点はなんでしたか?

  • 省略形を避ける
  • 口語表現を避ける
  • 定量的測定結果を取り入れる 
  • 見たものを解説する
  • オブジェクトは死んだも同然

これらのすべてのチェックポイントを達成したからといって、クリニカルトーンを保証することはできません - これらは経験則にすぎません。
しかしなるべく近づけるようにしましょう。

  • 最終更新:2016-10-16 14:55:56

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